((彼女の顔を見ないようにしていたのに、視界の端に映る寒さを堪える少女の姿に勢いよく顔を向けたら、手袋を外して無遠慮にその指先に触れてその冷たさに驚く。コートのポケットから冷たく成りかけているカイロと、先程まで身に付けていた手袋を差し出した。ついでに首に巻いていたマフラーをぐるぐると乱暴に巻き付けたら「今温めないと意味ねえだろ!立花さんのコートどこよ?」と母親にでもなった心地。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.59 〕
ちょっと遠回りしていこ。──あ、ついでに手でも繋いどく?(周囲の空気に肖ってふざけてみるものの、引っ叩かれてもいい頃合いだ。無論そこまで彼女が抜けているとも思わないけれど──此れは聖夜の空気に飲まれた、単なる戯れと彼女は受け取るのだろうか。矢巾が此の行為に名前を付けるなら其れは正しく″恋人ごっこ″)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.62 〕
朝練が寒いし面倒とか?あと今日の古文が意味不明だった。……あとは──(日誌には使えないような感想ばかり口にすれば、また彼女は笑ってくれるだろうか。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.40 〕
──え?(耳を疑うとは正しく此の事だろうか。少女が零した告白は矢巾を瞠目させるには十分だった。確かに耳に届いて来た自身に対する想いを冷静に処理すること等できず静止したまま──目の前にいる筈の、真剣な瞳の彼女が遠く感じた。初めて異性に告白されたわけでもないのに、柔らかな笑みがある筈の頬を流れる涙を見てはすっかり思考は停止してしまって答えを直ぐに返せなかった。あの秋の暮れ誰も居ない教室で一人涙するほどの想いを、ずっとひた隠しにしながら彼女は──。茫然としたままの矢巾を現実へと引き戻したのは、矢張り彼女の声だった。何に対するものなのだろう、小さな謝罪の後矢巾の返答を待たずし て立ち上がる彼女につられ、席を立った。彼女の言葉に「ああ……」と未だ気のない返事をしながら其の言葉に甘えてしまった。部活へと向かう途中も、ずっと先の告白が、少女の悲痛な声音が離れなかった。たった数ヶ月、たった数度の会話。涙しても直向きに笑みを作る彼女のことを己は──?窓から差し込む夕陽が、まるであの日のようだった。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.83 〕
(困った様に眉を下げて苦笑に近い笑みを浮かべたけれど、其れは気恥ずかしさを隠す為。乱暴に頭を掻いたら、彼女の頬を流れ落ちる雫を掬い上げた。やっと、そうすることが許されたような気がする。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.69 〕
立花さん、俺と付き合ってくれる?今度はごっこじゃなくて、カノジョって意味で。(と照れ臭そうに笑った。未だ少女について知らないことの方が多いけれど其れはきっと此れから先、長い時間を掛けて知っていければいい。思いの丈を口にしない矢巾を君はまた卑怯だと言うかも知れないけれど、少しずつ君に伝えていくからどうか受け取ってほしい。君の涙の理由も、それを掬う役割も、自分一人で十分だから。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.69 〕
雪帆ちゃーん、俺雪帆ちゃんのこと好きだからさー、付き合って。(と冗談めかして軽妙に口にしつつ、彼女の首筋に唇で軽く触れた。流石の矢巾と言えど気恥ずかしさは残るのか、彼女が顔を上げない様に彼女の頭部を撫で続けた。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.83 〕
(そう言うと、重ねた手に力を籠める。まだまだ此の想いも二人の関係も始まったばかりで何もかも半人前。時にぶつかることもあるだろうけれど、きっと彼女となら何とかなるとまた根拠のない自信が言っている。もう二度と一人きりで泣かせやしないから──ふたりぼっちで君と春を迎えに行こう。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.83 〕