(表に出さずとも率直に表現するなら確かにテンパっていたのだ。クラスメイトの少女の頬に残る落涙の名残に。揶揄うほど親しくも無ければ、慰めるほど交流も無い。単なるクラスメイトの肩書きはこの場では酷く不自由で、僅かな逡巡の後に選ぶのは形ばかりの"普段通り"。)座ってただけだろ。いいよ、別に。(幾拍か前に喉の奥に突っ掛えた言葉とはあべこべのことを告げて、机の中からノートを一冊引っ張り出した。それを無造作に鞄へと突っ込む傍ら、すっかり弱りきっているらしい彼女に対して完全なる無関心でいることの難しさを思い知る。放っておいてほしい様は窺えど、適当な言葉を添えて退室をしないのは何故か。まぁ、余裕も無くなるかと適当な見解は次いだ言葉の硬さを受けて根拠の得られない確信に変わる。こんな機会でもなければ知ることも無かっただろう彼女の片影に瞬きは一つ余分に落ちてしまった。普段じゃ随分と出来た人間っぷりなものだから、意外さがそうさせたのだ。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.38 〕
(彼女の言う“優しい”にも当て嵌まらない、後味が苦くならない為の自分勝手なもの。そんな時間の筈が、言葉を重ねる度にまだ詳しく知らぬ彼女らしさを取り戻していく様に安堵を覚えて出しているのも事実で。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.71 〕
寒がりつーかもう無理。夏よりは全然いいけど。……着込んでるわりに寒そうじゃん。装備レベルあげたら? とりあえず、(徐に手から引っこ抜いた手袋を「ほい」と差し出したのは余りにも見ている方まで寒々しくなってくるから。「嫌じゃなければ、どーぞ?」言い添えた言葉は唐突な行動へのフォロー代わりで、彼女次第でその手袋の行方は決まる事だろう。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.47 〕
(悪戯っ子さながらに綻ばせたその顔を上から覗き込む。その表情に便乗してのにやにや顔をオプションにしたままで。)……俺に会いたかった?(当然その問い掛けは100%冗談で、すぐに元通りの距離で「教室じゃ接点無いしな〜」と軽口が後を追う。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.47 〕
(しかし。彼女こそいい性格をしている。身長差から必然となる上目遣いは意図的なものも加わって、そりゃあ可愛らしいものになっている、が。)それだと入谷のもう片方の手は俺のポケットになるけどいいの?(やられっぱなしでいられない性分は何も彼女だけじゃあない。手袋を分け合うなら空いた手は繋いだままポケットに。定番のシチュエーションを告げるもそうならない事は目に見えている。実現しないからこその冗談を落として、さあ彼女の反応は如何にと待ち構える辺りは確かに似ているのだろう。"会いたかった"その単語一つにしてもそう。駆け引きにも似た遣り取りを愉しんでいるのは国見もまた同じ。歩きながら、器用に絡み合う視線の意図を明確に読み取るにはまだ時間が言葉が足りない。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.64 〕
ばーーーか。(足りずともこの先で補われていくものの様な気もするから、急く必要は無いのだろう。十分な手加減を以てぺちりと彼女の後頭部を叩いた手は寒さを逃れる事を理由にポケットの中に突っ込まれる。唇は弧を描いていた。)もう十分昇進してるだろ。いくらなんでもただのクラスメイトの女子の頭なんて叩けないって。
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.64 〕
例えばさぁ。完全にオフな状態で入谷が一人でいたとするじゃん。で。(徐に伸ばした手は、彼女が避けなければ正面からではあるもその目元を覆い隠した筈。そうして素早く身を寄せ耳元で「だぁれだ。」普段よりも低く甘ったるく囁いてみせた。先程の彼女を真似る様に。そこまでの実現が叶えばしてやったり顔でその手は外される。)……とかされたら、どう思う?(さて、彼女はどんな反応をくれるだろうか。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.48 〕
(ーー国見が去った後の教室で、残された少女は何時かの彼女に様に一人きりで泣くのだろうか。だが泣いている少女は彼女では無い。悪いとは思うが、少女の元に訪れる偶然の相手は国見では無いのだ。そんな偶然は、彼女だけでいい。)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?」(SIDE* girl) * No.6 〕
(必要以上に時間を掛けても10分くらいだっただろうか。もしかしたら教室には既に彼女の姿は無いかもしれない。それならそれで仕方がなく、ただのクラスメイトに戻る切欠はきっとこんなものだ。彼女が居ないなら、不在にした同じ位の時間だけ教室に佇んだ後に部活へと向かうのみ。もしもまだ居てくれたならばーー、「頭は冷えた?」そんな言葉と共にホットココアの缶が彼女へと差し出される。彼女が望むならただのクラスメイトに戻るのも良かろう。まだ、間に合う。けれど国見から望んで戻る心算はなかった。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.54 〕
(僅か一滴、それだけで奪われた時は結句今になっても戻らず、寧ろ増えていくばかり。女優並みの演技力で優等生を演じていた少女の素は不思議と馴染み易くて、寄せ集めたとてささやかなものにしかならぬ時間は他のクラスメイトよりも僅少なものだ。然れどもその密度は比べようにならぬほどに濃くあったと感取している。少女と話す日は普段よりも饒舌なところがあったと、淡々と変化の薄い表情に乗せる色があったと、その事実を知るのは少女だけだ。意味など追求する事も無いほど自然に、少しくらい少女が自惚れたって良いと思っていた。女子と殆ど会話をする事のない国見と、じゃれあいに似た時間が持てる程には親しいのだと。無意識ではあったものの、国見がそうだったから。)
〔 mini2B「秘密のかけらが散らばって」 * No.7 〕
(ーーーだからこそ、僅かに開いたら侭の扉から彼女の声が聞こえてきた事には眼を軽く見開いた。涙に濡れる声がぽたぽたと溢していく言葉の数々を扉一枚と十数歩分の距離を隔てて国見が聞いているとは彼女とて思うまい。だからこそ偽りの無い言葉としてそのまま届いた。自己防衛が上手な為に甘え下手になった不器用な少女が抱え込み続けてきたものが。)…………ばーか。
〔 mini2B「秘密のかけらが散らばって」 * No.7 〕
(彼女を見つけた結果どうなるかはなってみなければ分からない。けれど、陽を迎えに行くにはきっと今日みたいによく晴れた日が良い、そんな気がするのだ。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.8 〕
俺は全然足りない。(──さぁ、不得手でも青春の一頁を捲ってみよう。そのための今日なのだから。人気の失せた校舎で。たった二人きりの教室で。いつかの答え合わせをしようじゃないか。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.21 〕
他に好きな奴がいるんだと思ってた。だから遠慮だってしてたんだけどさ、(つい、と伸ばした手は彼女さえ逃げなければ華奢な手を絡めとるだろう。気を引くように此方へと引いてみせることも忘れない。教室には二人きりで、校内にも殆ど残っている人のいない今、乱入者は恐らくいないだろう。いたとしても、今更気にも留めないけれど。──秋も終わる頃までただのクラスメイトでしかなかった。同じ教室で一日の大半の時間を過ごしながらも意識の外の存在だったのだ。本当に、あの過日の一滴で全てが奪われた。スキの定義がどのようなものなのか、物にも人にも依るのだろうが、例えばそこに彼女を当て嵌めてみたなら。異性と親しげにしている姿を面白くないと思う時点で答えは出ているようなものだった。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.44 〕
(久しぶりに取り戻された時間、握ることの叶った指先はもどかしい距離を挟んで絡められた。密やかに、誰も知らない秘め事を重ねて築き上げ手に入れたもの。艶やかな甘さ纏う笑みにくつりと口角は引き上がり、溜息交じりの言葉が存外楽しそうに響く。)――お互い様だろ。(たった一言。手渡す言葉はただそれきりで、けれど愛の言葉なんてストレートなものよりも恋情籠る音で添えられる。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.65 〕
(今はただ、繋がれた手だけが春の訪れを物語っている。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.65 〕
(一つ二つと重ねてきた時間が積み上げたものは確かな恋情。優秀さで覆い隠したその下の素顔に触れてしまえば、その甘やかさを知ってしまえば手放すことなどもう出来まい。彼女が一人を望むならまた別の話ではあるけれど、二人を望むなら。似た者同士の意地の張り合いなどもう不必要で、たまには素直に想いにこの身任せてしまおうか。絡まる指先から伝わる体温も直に同じだけ溶けて混ざり合ってしまうだろう。二人がひとつになる、冬の終わり。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.81 〕
そう、なら遠慮なく。(貪欲に求めても構わないというのならば、この先のことに許しを求めることもしやしない。彼女の気ごと引き寄せた手、寄せたかんばせ。唇を落としたのはほんの一瞬。あの日、あの煌びやかなツリーの下では出来なかった熱を彼女へと伝えて、すっかり調子を取り戻した姿から再び余裕を奪い去ってしまおうとした目論見は叶っただろうか。「知りたいの?」悪戯に笑むのは此方の番だ。手綱を渡す心算はなく、計画的な橙が綺麗になじむ頬をもう一度赤に染めようとするばかり。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.81 〕
(――どうしたっていつかの未来にぶつかり合うこともケンカすることも、或いは国見が原因で再びその柔らかな頬が涙にぬれることもあるだろう。大切にしたって二人でいるからには免れぬことだと知っている。ましてや人間関係に器用じゃない面倒臭がりの男だから余計に。けれど頬を濡らすその涙を拭えるだけの距離にいることだけの努力を絶えず続けていこう。彼女とならきっとなんとかなるとらしくもなく信じているから。腕の中には少し早くに捕まえた唯一無二の陽。暖かさは冬を越えてやってきた。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.81 〕