(一応涙は止まったはずだと思っている、だから差し出すように置かれたポケットティッシュも本当は必要がないかもしれないけれど、弱る心に伸べられた厚意は純粋にうれしくて、腕を伸ばしてティッシュを取った。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.62 〕
あ、(声が漏れて、咄嗟に伸びたのは右手。辿り着かない答えを探して、周囲への注意力が散漫で、彼の姿を認識すると同時に引き留めるようにマフラーの端を摘まむように掴んだのは意思を介さない反射行動に似ていた。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.23 〕
(あちらこちらから聞こえる軽快なクリスマスソングも、カラフルに飾り立てられた店々も、先程までは楽しかったのに。視線のずっと先にいるのは好きな人、否、好きだった人。その隣には彼と同年代のように見える女性。仲睦まじく歩く姿に、無性に泣きたくなった。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.16 〕
(彼と言葉をひとつ交わす度、少しずつ、少しずつ、気になる先が人混みの中に見えた姿から彼の言葉の先へと変わってゆく。生きてきた年数の半分以上を共に過ごしていた恋心は完全にはなくならないまでも、水に溶かすように薄まっていく。過日に流した涙が時間差で恋を流しててゆく気がした。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.64 〕
(──誰かを、好きになったとき。不意に脳裏に浮かんだ光景があったせいかもしれない、彼の袖を引いたのは。当たり前を尋ねながら放す指先は、彼が誰かを好きになったときには引き止める動きをしてはいけないから。けれど今は、そういう噂があったら困るような相手が彼にいない今は、引き止めたって許されるだろう、きっと。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.69 〕
……他の男子だったら紹介でも仲介でもするけど、孤爪くんは、(だめ。小さく零した声は、昼休み特有の喧騒に紛れただろうか。相対する少女にさえも届かなかったらしい言葉は、二度は言わない。言えない。)
〔 mini2A「解けぬ糸の結わせ方」 * No.6 〕
(掌の下で話す端から言葉は自分の耳に入っていく。多少不明瞭だとしても彼の耳にも届いていることだろう。話し、聞いて、頭の中に言葉だけ蓄積して反芻はまだできない。一度話を止めればようやく自分の発言を反芻できて、そうして自分が何を言ったのか自覚すれば頬はまた熱を持つ。口許しか隠していないから、観察するような彼の瞳にはきっと明らか。)…………!(言ったことを自覚して、顔の熱さも自覚すれば逃げるように真正面を向いていたのを、体ごと左側へと向ける。そのまま上半身だけ左へと捻って後ろの席の机に突っ伏すように顔を隠した。挙動不審でしかなくても羞恥が勝って彼を見ることなんてできない。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.67 〕
(叶うならば彼が部活に行くまでは、もう少し、一緒に。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.67 〕