(決定的な失恋は人をダメにすると項垂れたーーのもすぐ後ろから届いた声によってすぐに慌てて腕を引っ込め、た拍子に肘を打って涙目で無言の抗議。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.61 〕
……月島くんってば意外と強硬手段に出る……。(結局無言から一歩飛び出した言葉は、抗議のわりに強さはなくへにゃりとした音だった。 冷気の遮られた部屋はまだ寒くって、それでもさっきよりふわりと温度が上がったような気がするのは、きっと気のせいじゃあない。)そんでもって意外とお世話焼き上手でやさしいね。(ほやほやと笑う顔は出会い頭よりはみっともなくなくなっただろうか。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.61 〕
(学校へと続く坂道手前、寒さに身を縮めながら。少し前をちょんちょんと跳ぶように歩くカラスの微笑ましさに口許緩め、真似た歩調で歩けるのも人気の少なさゆえのこと。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.10 〕
………ふふふっ、(人混みより頭一個大きな背中はどうにもこの人混みに辟易としているようなそんなオーラを醸し出していて。思わず緩んだほっぺたは寒さとチークと嬉しさが混ざって薄いピンク色だ。以前なら声を掛けるか迷いもしただろうが、今ではそんなこともなく。コンパスの違いで開く差を小走りで縮めて、その背中を叩いて呼び止めようとしたその瞬間。後ろからはしゃいで走ってきた子どもたちの一人が追い抜き様にぶつかり、よろけ、彼の背中にぶつかるという最悪な二次災害での引き止め方となった。)ごめんねっ、月島くん、えっと、あの、メリークリスマス……?(既に子どもの姿は見えないが彼にぶつかった犯人はすぐそこに。彼が振り向いたなら、叱られ待ちの子どものような顔をして謝罪と挨拶をする姿が見つかるはずだ。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.15 〕
(もうしばらく恋なんてごめんだと心底思った日も気付けば数ヶ月前になってしまっていた。傷口は化膿したりしながら時間を掛けて塞がりつつあって、傷跡は残れどきっと痛みは残らない。心ごと凍てついてしまいそうな日には不思議と彼と過ごす時間があって、幾度となく救われた果てにある今日。だから。ーー認めよう、たしかに彼に対して特別な想いがあると。今まで大層大切に抱え込んできて、喪ったばかりの恋心とはまた違うけれど。一緒にいるときのじんわりと胸の奥があったまる感覚も、自然体でいれる心地よさも、心がやわらかくなる安心感も。あるいは彼が告白されたときに感じたもやもやも、今こうして募るさびしさも。友人としてなのかどうかはまだあやふやで、けれども大切なことだけは確かだった。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.64 〕
(女の子同士の世界の、わりとよくある傷つき合い。)
〔 mini2A「解けぬ糸の結わせ方」 * No.4(タイトルより) 〕
(彼女のことを心配している素振りを見せつつも、嘘は何一つ混ぜていない。ただ、本音も言ってはいない。ただ、本当に、自分勝手な理由だったから。事実、付き合ってもいないから、彼への想いの言葉がまだ上手に見つからないから。言えるはずないだろう、“わたしもイヤだ”なんてそんな。返されるだろう言葉の方向性はある程度予想がついていて、その言葉は一身に受けるつもりではあるけれど、さて。先程までそれぞれの輪の中で楽しんでいた昼休み、教室の片隅でひそかにひそかに緊迫した空気が漂っていた。恋に真剣なだけで悪い子じゃあないから、たぶん長時間続くことはないだろう。周りが白熱化する可能性は捨てきれないけれど、でも。それでも言葉を曲げるつもりはなかった。)
〔 mini2A「解けぬ糸の結わせ方」 * No.4 〕
(点滅するピンク色のランプ、ホーム画面に表示された″遅くなるなら迎えいこっか?"と"かんちゃん″の文字を見なかったことにして。 )
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.51 〕
(拗ねたスタンプの連打に既読スルーを決めて、帰り支度は手早く丁寧に。髪も制服も整えられて、メイクを直し、お気に入りのリップも塗りなおして、教室を出る5分前には「もうちょっとで図書室行くね」の連絡もして。「まぁた、気合入れてかわいこぶっちゃって」そんな冷やかしの声に「ぶってるんじゃなくって可愛く見られたいの!」別れの言葉は今日も他愛のないもので、教室から図書室へと向かう間に思い出してはくすりと笑った。――ちょっとだけ緊張を隠して静かに開けた図書室の扉。きっと奥の方にいたって見つけるのは簡単だ。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.51 〕
……どうしよう…、うれしいの。すっごくね、うれしいの……ちゃんとお返事、するから、もうちょっとだけ待ってて。(多分、そう長くもかからないだろう。きっと、つぼみは暖かなひかりを浴びてすくすくと成長しているから、花を咲かせるのだってもうじきだ。もしかしたら。バレンタインの頃には手作りのチョコレートと一緒にもうちょっとちゃんと返せるかもしれない。今までのたくさんのありがとうと、これからもよろしくねと、それから――。ひとりきり涙した季節は終わりを告げて、もうすぐ春がやってくる。今年の春はきっと彼とふたり並んで過ごす時間が今よりもっと尊くしあわせなものになっている予感がする。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.86 〕