ひ、卑屈なんて初めて言われた!国見は優しいけど、結構意地悪いよね。(口の中に広がる甘味と割りに合わない軽口と冗句。窓の向こうに見せる表情は見えないけれど、すんなりと心の内に入り込む言の葉たちが彼の良さを引き立てているのかもしれない。今日初めて面と向かって話した相手のことを理解出来るにはまだまだ時間がかかるが、今分かることはそのくらい。それでも零れる「…不細工って言いたいの。」なんて可愛くない応酬は、正しく彼の言う通り"卑屈"だった。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.6 〕
(身長差を利用した上目遣いは負けん気発揮し茶目っ気を秘めていたことだろう。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.59 〕
(あの日の涙の理由を問われないことに酷く安堵を覚えた癖に、それは彼の優しさであるのかそれともただ単に興味がないだけなのかという二択に悩まされる日もあった。未だ掴めずにいる性根はほんの少しだけ似ているようで、自分よりは随分と処世術に長けているようにも見える素面が、緩やかに傾ぐ首が可愛らしく見えてしまうのが、僅かながらに憎らしくて憎めない。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.59 〕
あれ?国見はあたしに会いたくなかったの?(緩やかに首をかしげて下から覗き込んでは、その垂れた目許を見つめることを止めない。なあんだ、と肩を竦めて惜しがる表情はどこまで本気かを悟らせず、間を空けずにまた女は愉し気に微笑むのだ。)あたしは会いたかったよ。(然も当然の如く語らう唇は緩やかな弧を描き、談ずる口は未だ止まらない。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.59 〕
(零れてしまいそうな笑みを堪えてゆっくりそっと柔らかに目隠し。)だあれだ。(舌足らずの甘やかな声が珍しくも頭上から降り注ぎ、彼が自身の名を呼ぶが先か否か、指先を開けば上から「びっくりした?」と悪戯が成功した子どもみたいな笑みで覗き込もう。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.17 〕
〜〜〜〜っ、ば、っか、……び、びっくりするわよ!(開けた先のお道化たみたいなかんばせに悔しさと同時に羞恥心に襲われて、チークだけでは誤魔化せない赤が頬に塗りたくられるのを直に感じ取った。なんて男だ。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.56 〕
(──きゅっと唇を噛んで一文字に閉じたら浮かびかけたのはあの日と同じ雫。あぁダメだ、もう泣かないつもりだったのに。もう泣いてないかと心配してくれた、ならいいと頭を撫でてくれた、だからもう涙は見せぬと思っていたのに。──)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?(SIDE* girl)」 * No.15 〕
(どうせなら彼ごと連れて行ってくれたらよかったのに。全くもって走らないシャープペンシルの先が、遂に動きを止めた。)ほら、やっぱり迷惑だったんじゃない。………うそつき。(代わりに次いで出た冗句のように言ってのけた其れは、果たして彼の耳朶にどう触れるのだろう。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.52 〕
諦められない…。あたし、国見への恋、諦めきれないよ…。ばかじゃないの、ねえ、もうやだよ…なんで突き放してくんないの……っ、(――嗚呼、告げてしまった。いつだって喉元までつっかえていた恋慕は蕩けて解けて、行く手を失い吐露するしかない状態にまで陥ってしまった。彼の顔を真っすぐ見られず俯いたまま、八つ当たりの様な言葉は怒気さえ感じられない。嫉妬や義望に埋もれた心はいつしか溺れ、近付く度に奪われる。もう隠し通せようなんて思ってもいないから、ゆっくりと顔を上げた円い双眸が柔らかな虹彩を覗かせて、見つめる。)好きなの。あたし、……国見のこと、好き。
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.66 〕
あたしはいつもこうやって、横顔を盗み見したり、偶にさっきみたいに国見の席に触れてみたり、…そうやって満足してきたんだよ。(――桜色舞う春の好き日に出会い、偶然見かけた試合での様子は教室で眠そうに眼を擦る姿とは同一人物と思えなかった。それからというもの、盗み見た横顔は想像以上に格好良かったこと、ボールに触れる長くてきれいな指に憧れたこと、どんどん嵌まっていく自分が恋に落ちていることなんて一目瞭然であった。会話を交わすどころか声を掛けることさえ叶わない歯痒さに何度だって落ち込んで、涙を流すまでに辿ったあの日までの道のりは長いのだ。だから、小さなことで満足することくらい、なんてことないのだと自分に強く言い聞かせた。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.31 〕
机挟んでなんかじゃ、足りないよ。くにみ、(乞う様に甘ったれた唇が、もっともっとと爛々に息を吐く。急に手に入ってしまったものを確かめるような熱が欲しくて、嘘じゃないという現実を感じる彼の温もりに触れたかった。ただそれだけの感情に動かされたとは言えども、求めることがこんなにも恥ずかしいだなんて知りもしなかった。早々に逃げ出したい気持ちに負けてしまわぬ前にと上目使いで漆黒を追えば、早く、と瞳で訴えよう。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.75 〕