え、まっ…… な、なに考えてんの……!?(起こせも何も起きてんじゃん、美味いもん=ガリガリ君?、ていうか寒いのにアイス奢られても嫌がらせでしかない、彼の連打の数だけ突っかかりたい箇所がぽろぽろと浮かんだけれど。いやそうじゃない、居座られては困る。「ねえ…」「ちょっと」「でてってよ」“寝ている”彼の耳には届かないだろうそんな文句は無意味だろうか。「意味わかんない…。」その言葉を最後に、少女は黙り込む。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.50 〕
……ねえ、いつまで 寝てんの……。(無愛想に声をかけ、使っていた彼のタオルを自分のカバンにしまいこむ。視線は彼の二つぐらい隣の机を見て、絶対にそちらは向かなかないまま。)…アイスは、寒いから……、…あったかい紅茶がいい………。(“おごり”がどうしても魅力的だった。それだけだ。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.82 〕
……可愛い子、だった…な…。(切り揃った前髪なんて人を選ぶというのに少女の顔立ちに違和感なく、柔らかな雰囲気をそのままにした栗色。笑った顔が歪んだところで、少女は可憐なままだった。意識せず呟いた言葉は思いの外にか細い。)……ど、して… 断っちゃったんだろ……。(曖昧で気持ちに応えるほど彼は軽薄ではない。そうやってわかった風に言い切るのはどの口だというのか。自分に嘘をつくみたいに『付き合えばよかったのに』を作り出す、それは幼稚な心だった。彼は誰に対しても優しさを向けれる人だ。荷物を重そうに持つ人に。一人で寂しげに登校している誰かに。あの日教室にいたのが私じゃなかったとしても。きっと。暗い思惟が身体の低いところを這う。こちらに向く琥珀色をまっすぐ見返すことを覚える前で、本当によかった。自分の身の程を思い出した。)こんな根暗なブス…なんか…、ね……。(嘲るみたいに自分に聞かせる。劣等感の灰が塗り潰れる。歩き出すと頭痛がひどくなった。そうだ、頭が痛い。なのに胸を抑える姿はあまりに浅墓だ。彼と鉢合わせ無いように、早くこの場を去らなければいけなかった。)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?」(SIDE* girl) * No.18 〕
……!ふ、ふふっ。(唐突に肩を震わせ堪えきれない笑みがほんの少し零れた。突然のことに彼もぎょっとして毒島を見るものだから「…寝ぐせ。」笑わされた原因に指をさしてそう教えてやれば、ああと合点がいったというような反応を見せたあと、実に決まりが悪そうに笑って後頭部の寝ぐせを隠すように撫でた。
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?」(SIDE* boy) * No.4 〕
話すのとか、友達とか、…もう やめようよ。(どうってことはない、元に戻るだけの話だ。『はじめまして』をする前に。夢の中で出会う前に。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.45 〕
(ほろほろ零れる涙に宵の訪れが差し迫る教室、まるで“あの日”の再現だった。冷え切った両手で口元を覆えば指を雫が伝ってゆく。さっき彼の名前をなぞった指。もうあの暖かさはきっと永遠に訪れない。この恋を白状するときが、二人の終わりだと知っていたから。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.59 〕
(眩いおひさまの純粋なひかりに、どうしようもなく焦がれて伸ばした食指はついにその暖かさに届かない。日陰に生きる女が身の程を忘れて陽の光を浴びたが故の末路だった。まるで懺悔のような恋心を曝した放課後。未だ心は灰をかぶる。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.77 〕
(せつなさの檻に閉じ込んだ心は、脆く千切れて悲観へと変わる。紡ぐ言詞にどうしても滲んでくるものだから、蟠ったまま沈んでいくかのような重々しさが女の背にはあった。つぎはぎになっても暖かく形をたもっていたはずの心。この心は誰しも等しく抱いていいものなのだと口にした彼に、あの日確かに救われたのだ。今になって、皮肉なことだったと思う。きっとどこかで彼のそばにいたがる自分を持っていた女の、自己を擁護するための言い訳になっていた。やっぱり自分を許してはいけなかった。際限なく零れ続ける涙のおかげで呼吸さえもつらい。沈黙にますます息が詰まる。しかし、漸く彼が言葉を紡いだところで苦しげな呼吸が楽になるはずもなかった。)………そ、んなの、(問いを受けて絞り出した 湿り気を帯びる震えた声、切れ切れ。なんでかなんて 決まってる。)むり だから……、かなわない から。(それから、何よりも。)……私みたいな 根暗でブスな女が、好きになったら…西谷の迷惑だから。(諦めたかった理由なんて、毎日毎日浮かんでは繰り返していた。お手の物みたいに並べてみせて、その間も視界は滲んだまま。手の甲を鼻の頭にあてて、すんと鼻をすすると冷たい空気が鼻腔を刺した。伏せた双眸の瞼の裏側に浮かんできたのは一瞬の影。自分なんか比べることすらおこがましい、洗練された麗しい容貌。)西谷は………… きれいな人が好きだって、知ってるから。(自分の恋慕の無謀さを心底思い知らされた瞬間。心が焼けて、爛れて。それからずっと不平等な恋を呪って、手放したがった。)……………好きになって ごめん。(言葉と一緒に、往生際悪く彼の琥珀色を焼き付けた。きっと私にとっては最後のその瞳は、どんな情感を滲ませていたのだっけ。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.77 〕
…私っ、……私、がんばっても いいの?本当は…… 本当はっ 西谷に、嫌われたくない。…嫌われないように、西谷のちかくで がんばってもいいの?(呈した一欠けは、彼と答えを合わせるための自分の真心。違わず重なるのは、想いは一方通行じゃなくなったその瞬間。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.48 〕
(彼が己をダメと評価するひとつひとつ、どこが悪いのかわからないようなものだったけれど、苦々しい表情で紡がれたそれには思わず笑いを堪える口元が表れて。彼らしくない消えゆく語尾。)…気にして る…?(豪放な気性であれど僅かばかり優った女の身長差を意識してしまう、そんなところがいとしく思う。もう10cm彼の方が低くたって、私はきっとあなたを好きなままでいられる。恋に落ちる。だから。)……。相手のダメなところ 知っても。嫌いになれないのが…… すきってこと、なんだよ。きっと。(私は何をしてもあなたを嫌いになれなかった。心底拗らせている恋心だと今になって思い知った。彼が追いかけて結んでくれた想いはきっと 夕陽みたいな、運命みたいな赤い色。名前を呼びあって、想いを確かめ合いながら繋がったままいたい。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.73 〕