(――手渡された鞄を受け取る頃には、いつもの彼女に戻っている。泣きそうに見えたのは僅かな、瞬きの一瞬だけ。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.66 〕
(防寒具のひとつもないその姿に心底驚いた声を漏らすも、考えられる原因は唯ひとつ。慌てて紙袋からマフラーを取り出して背伸びをしながら彼の首に、そして手袋を掌に乗せた。あの日彼にして貰ったことを、今度は自分が彼に。ほんのお礼のつもりで、彼の反応がどうあれ満足そうに微笑もう。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.29 〕
(そう首を傾げながらも、腕に置かれた手が離れることはなかった。手を繋ぐことは憚れるが、腕を組むことに対する抵抗は特にないらしい。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.70 〕
(この冷え切った手のひらに温もりをくれる人はもういない。それが余計に心臓をぎゅっと掴んだような気がして、只管に駆け抜ける。)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?(SIDE* girl)」 * No.21 〕
(瞬きの瞬間にひと筋の線を描いて零れた涙は、想いが溢れた証拠。けれど、以前のように次から次へと溢れたりはしない。もう彼を困らせることはしたくないから。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.74 〕
(けれど、好い返事でなければ聞きたくない、なんていう傲慢な考えを口にしたくなくて。はくはくと音にならないまま唇を動かし、結局は噤んだ。自分は一体何を望んでいるのだろう?)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.60 〕
(――何度も諦めようとして、諦めきれなくて、ずっと抱えた恋心だった。彼に話し掛ける勇気がなくて、遠目から見ているだけの報われない想い。それが叶う日が来るかもしれないと、淡い期待を抱いたのは聖なる夜の夢だと知っていたから。無駄な期待をしないように、今まで”クラスメイト”という立ち位置を守っていたのに。それを壊したのは立花自身だとしても、その言葉はあまりにも――思わせ振りが過ぎる。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.60 〕
(――手をぎゅっと握り、頭を軽く彼の肩に乗せた。そして、耳許で小さく囁く。ずるいひとには少しの駆け引きが必要でしょう?)矢巾くんが、雪のこと好きだって言ってくれたら…付き合ってあげる。
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.78 〕
(絡めた彼の指先を大切そうに撫でて「雪はこの手も、矢巾くんも好きだよ。」と甘い声で囁いた。こうして触れられるのが嬉しくて頬は緩むが、告げた言葉には照れが勝る。それでも、不意打ちを食らわせられたことに悪戯っぽく口角を上げて、あと少し肩を借りよう。――あなたの隣で過ごす時間、甘える機会は増えるだろうから。今後はそれに、慣れて貰わなくては、)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.78 〕