そんな事思ってねえし、笑うつもりもねえ。………なあ、この事、誰かに笑われたのか?(肯定と、一歩、踏み込んだ質問、果たしてこの問いに彼女は答えるだろうか。答えるか答えないかは勿論彼女次第で、答えないのならばそれ以上は追求しないつもり。どちらにせよ西谷の答えは決まっているのだ。告げた通り思ってもいなければ、笑うつもりなど毛頭ない。それは彼女だけの大切なものであろうから。それだけ伝わればそれでいい。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.76 〕
そうか。…でも俺は、きえてほしくねーな。今まで全然話せなかったけど今日話せて楽しいって思ってるし、もっと話してえもん。(傍に居て欲しいと思う人物は自分以外に存在しているはずだろう。西谷に言われたところでそれが彼女にとってどんな力になるかは分からない。拒絶されようとこれは”寝言”だ。忘れてしまうものにだってできる。枕にしてる両腕をぐっと引き寄せ、両手は制服の袖を強く掴んだ。)お前が自分を嫌いだってんなら、俺がいい所を見つけてやるよ。
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.76 〕
(厳密に言えば出掛けに強制的に母親に巻かれた黄色のチェックのマフラーがあるのだけれど、途中で暑くなって外し、現在斜め掛けの鞄の中へ眠らせては、時々寒そうに身を縮こませる人を追い越しながら学校までの道を走って、その先――丸い琥珀色が捉えたのは、茶色の、襟足跳ねた髪と、丸まった後姿。走る西谷と、ゆっくりと歩き進む彼女とでは距離縮めるのは容易い。近付いて、)はよっ!(その背をちゃんと力加減して、軽く叩いた。彼女が振り向けば明るく笑う西谷の姿がある筈。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.18 〕
(しかしそんな中西谷といえば、彼の肩に手をやる表情は寧ろ普段よりも引き締まっており「考えてみろ、龍。俺たちは彼女と過ごせてはいないが、潔子さんとほぼ一日一緒に居て、可憐なお姿をこの目に焼き付けることができてるじゃねぇか…!」それはそれは力強い言葉だった。流石だと褒めてくれる彼と手を取り合い、周りに冷めた目で見られる、これもまた通常運転、何も変わらない。)
〔 3rd「聖なる夜の解けない魔法」 * No.13 〕
(恋する気持ちは平等だ。いつかの放課後、”夢の中”で西谷が告げた言葉。それは紛れもない事実だと思っているし、今だって変わっていない。落ち込む彼女を励まそうとする為だけの言葉でもない。けれども――想いが散るのも、想い受け止めてあげられぬのも、同じように辛いのだとは今、知った。ぎゅう、と絞られるように胸の奥が痛い。ふと、近くに彼女の気配を感じた気がして少女が立ち去った方とは逆を振り返るけれども、やはりただの気のせいであったらしい。襟足跳ねる茶色の髪も、同じくらいの背丈の影も何も見つからない。――さて、教室に戻らねば。ぺたぺたと上履きの音響かせて歩く渡り廊下。)…痛ぇな。(思わず零れた言葉は口の中広がって、苦かった。)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?」(SIDE* girl) * No.9 〕
(気がつけばストロー噛んでしまうのは中々直らない西谷の癖。咥えていた噛み跡のついたストローを離し、離れた距離では何も聞こえるわけがないのに耳は音を拾おうとするし、琥珀色は2人の姿を映し出して逸らさない。逸らせない。遠目からでも何だか仲良さそうに見える二人。二人の横を通ろうとする生徒へ道を開けようと彼女の肩を押す、手。背高いの死ぬほど羨ましい。けれど、それよりも―――あ。笑った。一瞬見えて直ぐに持っていたノートに隠された口元は確かに弧を描いていた。それはそれは優しい、暖かな笑みであった。『笑っていた方がいいぞ』思った事は、距離離れていようとよく通る声で彼女に届ける事ができるだろう。しかしそんな野暮な事はしない。2人に背を向ければ階段のぼり教室へと向かう。見た事が無かった笑う表情を見ることが出来た、それは良かった。あの日悲しみの海に溺れ泣いていた彼女の姿はもうない事が嬉しいのに、不思議と心にぽっかりと大きな穴が開いたよう。どうしてだろう、―――至極、面白くなかった。)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?」(SIDE* boy) * No.9 〕
(――思ったことなかった。今までずっと。空気揺らす音で思い知る。強く噛んだ唇はぶちりと嫌な音を立てて切れ、舌先に鉄味。苦くて、不味くてまるで心の中を映しているような嫌な味。言葉は飲み込んでしまえば音に成らない。――駄目だ、泣かせてしまう。いくら力が込められていても弱まる語尾に、そう認識するよりも早く、零れ落ちる涙の粒を見送ることとなる。友達ではない己は机挟んで向かい合う近い距離だというのに、手を伸ばし涙を拭う事すらできない、もう優しい言葉も掛けてあげることができない。その役目は己ではないから。そうであった筈なのに――)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.68 〕
(”もう”が指すのは一度だけではない事実。少なくともその一度は――窓の外沈んだ橙色。染まる黒。濡れる涙顔に落ちる影、――あの日、なのだろう。落ちる涙と言葉。一つだけ、引っかかるところがあって、その訳を知りたくて。それだけはどうしても知らなければいけない気がした。)なんで、捨てなきゃなんねえんだよ。
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.68 〕
とーこ!!(名を呼んで、一歩一歩距離を縮めていく。今回は、秋の日のように静止の声を掛けられようと足は止めない。何言われようと例え物投げられようとも「うるせえ!」と全て跳ね除けるつもり。消えてしまいそうな儚さを持った彼女に向けて伸ばした手は、バレーボールを追うこと、繋ぐ事しか知らなかった己の小さな掌は。彼女の腕を掴み、存在を確かめる事は叶うだろうか。もし、温もりを掴む事が出来ても、空気を掴んでも、一番最初に伝える言葉は変わらない。)―――っ、好きだ!!!
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.22 〕
(きっと初めて涙を見た瞬間から全ては動き出していたのだと思う。ゆっくりだけど着実に伸ばされていた想いの糸に気付かぬままに。彼女の想いと結び目を作りたくて、彼女が今どう思ってくれているかなんて気にできなかったが、それでも。我慢が苦手で、直球しか知らない男と、彼女との答え合わせはこれが正解だと思うから。)嘘じゃねえよ。(琥珀色が見つめる先、彼女の黒い瞳を真っ直ぐ見据えながら吐いた力強い否定兼、肯定。彼女の涙を見るのはこれで3回目。嗚呼、泣かしてばかりだな。事実胸は絞られる程に苦しい。焦がれる笑みを浮かべさせることのできない悔しさもあるが、涙流す理由が自分の事であると知った今は雫は眩しくて愛しくて。伸ばした右手の、熱を持った親指は、彼女の白い頬に触れ涙跡を辿り目尻に溜まる雫を拭い取る。いつかの放課後にできなくて、したいと思っていた事だ。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.57 〕
(何にせよ、きっと彼女は照れるだろうから。その表情見つめては己はきっとまた彼女に恋をする。彼女への”好き”を増やしていく。照れた顔、可愛いと笑って、ずっと、ずっと。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.87 〕