(止まらないのなら全部吐き出させてしまえ。彼女の嗚咽混じりの言葉とは正反対に、さらりと紡いだ言葉は先程までのような軽口だ。)
〔 1st「夕闇に消える恋の終わり」 * No.60 〕
(りんごとトマト?しかも温かい?飲んですらいないのになんだか口のなかに少し酸味を感じる気がするのは、そのパッケージもあいまってか。少女とそれの間、視線を数度行き来させた後、悩みはしたが興味も手伝って硬貨を投入してボタンを押した。がこんと鈍い音をたてて落ちてきたものを取り出して、見慣れぬパッケージをじぃっと見つめる。軽く振ってからふたを開け、温かそうに湯気をたてるそれをこくりと一口。) ……、あー……飲んでみる?(舌の上で転がすように吟味して、一拍。甘味と酸味の合わさった味は決して不味くはない、不味くはないけれど。形容しがたいそれに視線をさ迷わせ、未だ湯気がたつそれを目の前の少女へ差し出した。)
〔 2nd「朝焼けと嘯くくちびる」 * No.35 〕
(その姿を見送っていつも以上になんだか重く感じる空気に大きなため息を吐き出した。あぁ俺今ぶっさいくな顔してそうだなぁ、なんて。とある日の少女の言葉を思い出したのは、さて、何故だろう。)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?」(SIDE* girl) * No.4 〕
(「及川ー」聞き慣れた幼馴染みの声を耳にして、廊下に面した窓から顔を出す彼になぁにと声を投げ掛けて。「辞書忘れた、貸せ。」とのお言葉を頂戴しては鞄を漁り目当てのものを持って彼のいる廊下へ向かう。)はいはい、岩ちゃんご所望の電子辞書ね〜。勉強ヤバイ?及川さんが助けてあげようか?(差し出しながらにやにやと笑うとうぜぇと横っ腹を小突かれる。いつもの事ながら酷いと文句をいっても何処吹く風、流されるのはわかりきっていた事なれど。)折角助けてあげようとしたのに!僻みはみっともないぞ!(「うっせぇ。」「酷い!」繰り返されてきた言葉のラリーは止めどなく、回りの女子がちょっぴり笑っているのが聞こえて漸くはっとしたように目くじらを立てていた表情を落ち着けた。ここ最近よく聞いていた笑い声が聞こえてきたのはそんな時。)
〔 mini1「視線の先のあの子はだあれ?」(SIDE* boy) * No.16 〕
(確証はない。彼女の想い人が件の少年であったのか、流石に皆まで問うことは出来ない。けれど多分、大きく外れてはいない気がする。噂の発端になったクリスマスの日、声をかけてくれたのは彼女の方とはいえその後買い物に付き合わせたのは紛れもなく及川の方だから。掲示物を貼る為とはいえ、かなり上から見下ろす形での謝罪なんて逆効果かもしれぬけれど。それでも、ここで言わなかったら多分もう言う機会は、話す機会が無くなってしまうんじゃないかと、そう危惧したから。)
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.56 〕
(――どちらにしても最後彼女に告げるのは同じ「また明日。」))
〔 4th「僕と君と、何も知らないあの子の声」 * No.75 〕
(さらりと髪一房靡かせたなら、ちらりと見えたのは赤に染まった少女の耳。)…ね、本当にこのままさよならしちゃっていいの?俺のこと嫌い?
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.63 〕
嘘じゃない、夢でもない。…全部、ほんとだよ。(これ以上ないくらい穏やかな語り口は普段の胡散臭さを隠すように。漸く彼女の手を離したなら彼女の髪に手を滑らせた。いつからだろう、こうして触れたいと思うようになったのは。自然と視界に赤を探し始めたのは。――多分それはもうずいぶん前からだ。)前にもいったけど、俺はバレーが今大好きだし、そのせいで我慢してって言うことも多いかもしれない。…でも俺もさよならはしたくないから、善処するよ。だから。俺と、付き合ってくれる?(真っ直ぐに見つめた赤から移るように段々と頬が暑くなる感覚はきっと勘違いではないだろう。慣れているようで、きっと彼女も及川もこれから先の事をなにも知らない。時間が止まったような、二人だけのこの場所で新しい一歩を始めよう。)
〔 Last「"いつか"の答え合わせをしよう」 * No.84 〕